元少年Aにしかできないこと 森田ゆり
「絶歌:神戸連続児童殺傷事件 元少年A」を読んだ。そしてひどくがっかりした。後半4分の1は読み続ける気がなくなった。
がっかりしたのは、多くの評者が述べているらしいこと、つまりAの反省の言葉が少ないからではなく、Aの記述が自己顕示的だからでもない。 Aが、関東医療少年院で受けた6年半に及ぶ治療・矯正教育について完璧に沈黙し、ただの一言も書かなかったからだ。
「1997年10月20日。この日、(略)僕は、鑑定医たちが『数パーセントのわずかな可能性』と観測した『更生』へと向かって、おぼつかない足取りで歩いて行った。」で第一部は終わり、第二部は「21歳の春、僕は6年5か月に及んだ少年院生活を終え、社会に出た。」の一文から始まる。あたかも、その間だけ削除したかのように少年院での更生の日々の全てがすっぽりと抜けているのだ。
少年院でどのような治療矯正教育がなされたのか、それをAはどのように受け、その間どのような抵抗と寛解と、困難と成功があったのか。精神医療的な、あるいは心理療法的な、あるいは社会スキル的なプログラムはどのように組まれたのか。どの時点でどのような試行錯誤と前進とがあったのか。そのためにどれだけの時間と人的資源と経済資源とテクノロジーとが投じられたのか。
逮捕後の医療鑑定で「性的サディズム」と「行為障害」と診断された14歳の少年Aの病気に対して、6年半にわたってどのような治療がなされたのか、それはどのように効果を発揮し、退院が可能となったのか。
平易な言葉でいうなら「サイコパス」という他者への共感性の脳機能に異常のあった状態から、どのように脳は感情機能を回復したのか。日本のみならず、世界でこの分野で仕事をする者ならば、なんとしても知りたい事例なのである。
原則2年間で収監を終えるところを、Aは異例で6年半まで延長されたうえで、治療更生の完了と認定を受けて社会に出た。
「少年A 矯正2500日 全記録」草薙厚子著という本が2004年に出版されている。表紙には「極秘の贖罪教育と矯正教育を初めて明かす衝撃のレポート」との宣伝コピーがついていたが、題名およびコピー文と本の内実にはかなりの隔たりがあった。当然のことだが、治療矯正教育の内容は大まかなことしか書かれていない。この著者は過去15年間に話題になった特異な少年事件をかなり突っ込んでルポしていることで知られているが、取材で書けることは当然限られている。少年Aの治療法として、女性の精神科医を母親役として疑似家族を形成し、Aを赤ん坊の愛着形成から育てなおす方法が効果を奏したことがうかがえるにすぎない。
関東医療少年院で、日本のトップレベルの精神科医と多くの専門家とスタッフ総がかりでの、6年半の歳月を投じた回復治療対応には、莫大な公費が使われている。本来その経験は社会に還元されるべきものである。法務省がそれを公開し、貴重な社会的資源とすることが出来ないのだとしたら、それを公けにできるのは、A本人しかいない。それを期待していた。
共感力をとりもどしたAは、本書の中で、自分のしたことへの罪悪感にうちのめされながら、「贖罪」するには何をすればよいのかと苦悩している。被害者の遺族に対して、自分の家族に対して、社会全体に対して贖罪をしたいと強く望んでいる。ならば、答えは明快ではないか。
遺族、家族、社会、その誰もがなによりも願っていることは、二度と同じような事件を発生させないことだ。ならばAの贖罪とは、そのために貢献することにほかならない。Aと同じような障がいを持つ人が犯罪を犯さないために、本人は、家族は、相談員は、医師は、教師は、警察は、司法制度は、児童福祉制度は、何に配慮し、何をしたらよいのかを炙り出す自分事例検討、べてるの家風に言うのなら「当事者研究」をすることができるではないか。共感性や罪意識が欠如し、誇大な自己陶酔感に浸ってしまう脳の異常作動に苦しむサイコパスは日本でも少なくない。
Aが第一部で克明に描写した幼少期から事件に至る迄の、どこでどのように外からの関わりがあれば、殺人に至る迄の「性的サディズム」行動化のエスカレートをストップすることができたのかを書くことで、犯罪予防への多大な貢献ができる。猫殺しを夢中で続けた2年間に、二人の少女を路上で襲い彩香ちゃんを殺害してから、級友のダフネ君が、あれはAの仕業だと学校内で触れ回るまでの2か月間に、 ダフネ君をして直後に転校させるほどに恐怖に陥れたAによる残虐なまでの殴打とナイフでの襲撃から、淳君殺害までの10日間に、誰がどのようにAに関われば、自分でも止められなくなってしまったサディズム行為のエスカレートをストップできたのか。第二部で、少年院を出てから11年間のどん底暮らしでいかに多くの苦労を重ねたかをぐだぐだと書き綴るのではなく、Aはそれをこそ、克明に書くべきだった。
事件に至る前の精神科医での診察、児童相談所でのカウンセリング通所、学校教師による親の呼び出し、それらひとつひとつが、行為のエスカレートに拍車をかけこそすれ、抑止につながらなかったのはなぜか。どのような対応がどの時点であれば良かったのか。そして6年半の少年院での治療矯正教育での自分の変化のすべてを克明に書いてほしい。
それを徹底的に追及して社会に提示することができたとき、Aは初めて、身勝手な自己弁護ではなく、彼の言葉を使うならば「自分自身から逃げる」ことを止め、「自分の過去と対峙」することが出来るだろう。
一杯の水に合掌 原爆忌 父・森田宗一の句です。
一杯の水に合掌 原爆忌 父・森田宗一の句です。
明日8月4日から3日間、広島です。暑い、熱い広島の夏。 汗ぬぐいながらの平和記念公園。
いつも不思議な出会いがあります。
写真は、まだ背高女としてあちらこちらと出没していた数年前、平和公園でアメリカ・インディアンリーダーのデニス・バンクスにばったり。デニスは、わたしを見上げて「わーおおおお!!」 デニスとは「聖なる魂」という彼の半生記の本を一緒に書いて、1988年に朝日ジャーナルノンフィクション大賞をいただきました。
今年はどんな出会いがあるでしょう。
今週末のアサーティブネス研修で、広島の3日間体験をシェアしますね。
アサーティブネス研修のご案内
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アサーティブネス研修のご案内
日時:2015年8月8~9日 (土・日) AM10:00~PM5:00
場所:大阪市市民交流センターひがしよどがわ
テキスト:『アサーティブネス研修ワークブック』(森田ゆり著エンパワメント・センター)
サブテキスト:『多様性トレーニングガイド』(森田ゆり著 解放出版)
参加費:20,000円(テキスト代は、別)
アサーティブネスの方法とスキルを学び、ロールプレイで練習する。
内容
自己診断/わたしの内なるちからへの信頼/短所は長所/怒りの仮面/
否定的なひとりごとの書き換え/I(わたし)メッセージの練習/アサーティ
ブスキルのまとめ/自分の課題でロールプレイをしてコーチングを受ける
アメリカと日本で、25年間毎年実施してきて、すでに2000人以上の
受講修了生がいる最も人気のある研修。アサーティブ・コミュニケーション
力をつけるには、他者にどう対応するかのスキルを学ぶ以前にまず自分を
知ることが不可欠です。1日目は、自分を深く知るアクティビティと、他者への効果的な対応をワークシート、グループワーク、ロールプレイでしっかりと身に着けます。2日目は、参加者が自分の課 題でロールプレイをし、森田が逐一適切なフィードバックでコーチングをします。多くの修了生が、人生の大きな転換になったと感想を述べています。
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